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1on1、日報、定例会議、電子監視。仕事を良くするはずの仕組みが、いつの間にか『仕事している証拠』を作る作業に変わる。調査と研究から、その構造を考えます。
ある匿名投稿が、妙に刺さりました。
17年間書き続けた日報について、書いている本人が「誰も読んでいないのでは」と疑問を持つ。そんな内容の投稿です。
匿名投稿なので、出来事そのものを事実として確認することはできません。
それでも、多くの人が「ああ、分かる」と感じる理由はあります。
仕事には、ときどき不思議なものが増殖するからです。
日報。 週報。 定例会議。 朝会。 1on1。 進捗報告。 ステータス更新。 KPI入力。 そして、それらをきれいにこなす「シゴデキ感」。
本来は仕事を良くするために始まったはずなのに、いつの間にか、それ自体をこなすことが仕事になっていきます。
私はこの現象を、かなり乱暴に言えば「仕事してる感の生産」と呼びたくなります。
人事分析会社Visierは2023年、米国のフルタイム従業員1,000人を対象に、いわゆる「Productivity Theater」、つまり生産的に見えるための行動について調査しました。
回答者の83%が、過去12か月に少なくとも一つの「見せるための仕事」をしたと回答しています。
さらに43%は、こうした行動に週10時間以上を使っていると答えました。
内容を見ると、必要以上に早くメッセージへ返信する、不要な会議に出る、働いているように見える行動を優先するといったものが並びます。
ここで重要なのは、「サボっている社員がいる」という話ではありません。
むしろ逆です。
評価されるために、見える仕事を増やしている。
つまり、組織が「成果」よりも「成果を出しているように見える行動」を評価し始めると、人はそのルールに適応します。
仕事をしている人に、仕事をしている証拠まで作らせる。
この二重作業が始まります。
Slackの「State of Work」調査では、回答者が参加している会議の約43%は、なくしても大きな悪影響はないとされています。
もちろん、すべての会議が無駄という意味ではありません。
問題は、「会議を開くこと」が目的化したときです。
情報共有のために集まったはずなのに、すでにチャットやダッシュボードに書いてある内容を一人ずつ読み上げる。
意思決定のために集まったはずなのに、誰も決めない。
問題解決のために集まったはずなのに、「持ち帰ります」で終わる。
こうなると会議は、仕事を前に進める場所ではなく、「ちゃんと管理しています」という組織側の証明書になります。
1on1も同じです。
近年、上司と部下が定期的に対話する1on1は、多くの企業で当たり前になりました。
ところが、1on1を主要テーマとして扱った学術研究は、普及度に比べてまだ多くありません。
2022年に発表されたレビュー論文は、1on1が職場の会議の約47%を占めると推定される一方で、1on1そのものを焦点にした実証研究が限られていると指摘しています。
だからといって、1on1に意味がないわけではありません。
Gallupは2026年、社員が週1回以上「意味のあるフィードバック」を受けている場合、エンゲージメントが大きく高まるというデータを紹介しています。
ここで面白いのは、「毎週30分、必ず1on1を実施すること」が重要だと言っているわけではない点です。
重要なのは、意味のあるフィードバックです。
つまり、手段と目的を取り違えてはいけません。
話すことがないのに予定表に30分あるから話す。
毎回同じテンプレートを埋める。
「最近どう?」から始まり、特に何もなく、時間だけが過ぎる。
それは対話ではなく、1on1の儀式です。
Daily Stand-upについても興味深い研究があります。
2016年の研究では、12のソフトウェアチームを対象に、60人へのインタビューと79回のDaily Stand-upの観察が行われました。
評価が高かったのは、情報共有や問題解決につながる場合でした。
一方、評価を下げた要因には、上司への進捗報告になっていること、頻度が高すぎること、長すぎること、作業を中断させることが挙げられています。
要するに、同じ「朝会」でも目的によって価値が変わります。
チーム同士で問題を解くための15分なら意味がある。
上司が「昨日何した?」と全員へ順番に聞く15分なら、それは朝会という名前の点呼です。
リモートワークやAIの普及で、今度は「見えていないから測ろう」という方向も強まりました。
PC操作、ログイン時間、アプリ利用、キーストローク、画面キャプチャ。
技術的には、いくらでも測れます。
しかし、測れることと、測るべきことは別です。
2023年のPersonnel Psychologyに掲載された電子的パフォーマンス監視のメタ分析では、94の独立サンプル、計23,461人を分析しています。
結果はかなり示唆的です。
電子監視が労働者のパフォーマンスを改善するという証拠は確認できず、一方で監視の存在はストレス増加と関連していました。
しかも、透明性が高く、侵襲性が低い監視のほうが、従業員の態度は良好でした。
「測れば管理できる」という発想は、とても魅力的です。
でも、人間はメーターではありません。
測定指標が評価につながれば、人は指標を改善する行動を始めます。
成果ではなく、指標を。
ここで思い出したいのが、経営学者Eric Abrahamsonが1996年に提示した「Management Fashion」という考え方です。
彼は、ある経営手法が「最先端で、進歩的である」と集団的に信じられ、コンサルティング会社、経営メディア、ビジネススクールなどを通じて広がる現象を論じました。
もちろん、1on1やアジャイルやKPIが単なる流行だ、という意味ではありません。
役に立つものは役に立ちます。
ただ、組織はときどき「導入したこと」そのものを成果にしてしまいます。
1on1を導入しました。 DXを導入しました。 OKRを導入しました。 AIを導入しました。
そして次に聞かれるのが、「実施率は何%ですか」です。
ここで少し嫌な予感がします。
実施率100%を達成するために、意味のない1on1が100%実施される未来です。
AIは、本来こうした事務作業を減らせるはずです。
会議を要約する。 日報を自動生成する。 進捗を集約する。 報告書を作る。
便利です。
ただし、業務そのものを見直さずにAIだけ入れると、少し面白いことが起きます。
人間がAIに日報を書かせる。 AIが日報を要約する。 別のAIがその要約を上司向けに整理する。 上司もAIに「重要なところだけ教えて」と聞く。
ここまで来ると、最初から日報そのものをなくしたほうが早いのではないか、という疑問が出てきます。
AIで「仕事してる感」を高速生産する会社と、AIで「仕事してる感」を消す会社。
これから差がつくのは、たぶん後者です。
仕組みを全部なくせばいい、という話ではありません。
日報が知識共有に使われている会社もあります。 1on1が離職防止や成長支援につながっている会社もあります。 朝会が障害の早期発見に役立つチームもあります。
問題は、目的を失った仕組みを惰性で続けることです。
見直すなら、私は次の順番がよいと思います。
この5つに答えられないなら、かなり怪しい。
「昔からやっているから」は、理由ではありません。
「みんなやっているから」も、理由ではありません。
「シゴデキっぽいから」に至っては、もはや理由ですらありません。
必要なときに話す。 必要なことだけ残す。 問題があるときだけ集まる。 そして、 本当に価値を生む仕事に時間を使う。
それでいいのではないでしょうか。
仕事をしている人に、 「仕事をしている証拠」 まで作らせる。
そんな仕事だけは、 そろそろ仕事から外していいと思います。