世界の違和感|2026/9/12|羽田野 剛士

仕事をする暇を奪う「仕事してる感」――1on1、日報、シゴデキという茶番

1on1、日報、定例会議、電子監視。仕事を良くするはずの仕組みが、いつの間にか『仕事している証拠』を作る作業に変わる。調査と研究から、その構造を考えます。

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ある匿名投稿が、妙に刺さりました。

17年間書き続けた日報について、書いている本人が「誰も読んでいないのでは」と疑問を持つ。そんな内容の投稿です。

匿名投稿なので、出来事そのものを事実として確認することはできません。

それでも、多くの人が「ああ、分かる」と感じる理由はあります。

仕事には、ときどき不思議なものが増殖するからです。

日報。 週報。 定例会議。 朝会。 1on1。 進捗報告。 ステータス更新。 KPI入力。 そして、それらをきれいにこなす「シゴデキ感」。

本来は仕事を良くするために始まったはずなのに、いつの間にか、それ自体をこなすことが仕事になっていきます。

私はこの現象を、かなり乱暴に言えば「仕事してる感の生産」と呼びたくなります。

「生産性」ではなく、「生産性を演じる」仕事

人事分析会社Visierは2023年、米国のフルタイム従業員1,000人を対象に、いわゆる「Productivity Theater」、つまり生産的に見えるための行動について調査しました。

回答者の83%が、過去12か月に少なくとも一つの「見せるための仕事」をしたと回答しています。

さらに43%は、こうした行動に週10時間以上を使っていると答えました。

内容を見ると、必要以上に早くメッセージへ返信する、不要な会議に出る、働いているように見える行動を優先するといったものが並びます。

ここで重要なのは、「サボっている社員がいる」という話ではありません。

むしろ逆です。

評価されるために、見える仕事を増やしている。

つまり、組織が「成果」よりも「成果を出しているように見える行動」を評価し始めると、人はそのルールに適応します。

仕事をしている人に、仕事をしている証拠まで作らせる。

この二重作業が始まります。

会議は、本当に全部必要なのか

Slackの「State of Work」調査では、回答者が参加している会議の約43%は、なくしても大きな悪影響はないとされています。

もちろん、すべての会議が無駄という意味ではありません。

問題は、「会議を開くこと」が目的化したときです。

情報共有のために集まったはずなのに、すでにチャットやダッシュボードに書いてある内容を一人ずつ読み上げる。

意思決定のために集まったはずなのに、誰も決めない。

問題解決のために集まったはずなのに、「持ち帰ります」で終わる。

こうなると会議は、仕事を前に進める場所ではなく、「ちゃんと管理しています」という組織側の証明書になります。

1on1は悪くない。宗教化するとおかしくなる

1on1も同じです。

近年、上司と部下が定期的に対話する1on1は、多くの企業で当たり前になりました。

ところが、1on1を主要テーマとして扱った学術研究は、普及度に比べてまだ多くありません。

2022年に発表されたレビュー論文は、1on1が職場の会議の約47%を占めると推定される一方で、1on1そのものを焦点にした実証研究が限られていると指摘しています。

だからといって、1on1に意味がないわけではありません。

Gallupは2026年、社員が週1回以上「意味のあるフィードバック」を受けている場合、エンゲージメントが大きく高まるというデータを紹介しています。

ここで面白いのは、「毎週30分、必ず1on1を実施すること」が重要だと言っているわけではない点です。

重要なのは、意味のあるフィードバックです。

つまり、手段と目的を取り違えてはいけません。

話すことがないのに予定表に30分あるから話す。

毎回同じテンプレートを埋める。

「最近どう?」から始まり、特に何もなく、時間だけが過ぎる。

それは対話ではなく、1on1の儀式です。

朝会も、使い方を間違えると「上司への点呼」になる

Daily Stand-upについても興味深い研究があります。

2016年の研究では、12のソフトウェアチームを対象に、60人へのインタビューと79回のDaily Stand-upの観察が行われました。

評価が高かったのは、情報共有や問題解決につながる場合でした。

一方、評価を下げた要因には、上司への進捗報告になっていること、頻度が高すぎること、長すぎること、作業を中断させることが挙げられています。

要するに、同じ「朝会」でも目的によって価値が変わります。

チーム同士で問題を解くための15分なら意味がある。

上司が「昨日何した?」と全員へ順番に聞く15分なら、それは朝会という名前の点呼です。

監視を増やせば、生産性は上がるのか

リモートワークやAIの普及で、今度は「見えていないから測ろう」という方向も強まりました。

PC操作、ログイン時間、アプリ利用、キーストローク、画面キャプチャ。

技術的には、いくらでも測れます。

しかし、測れることと、測るべきことは別です。

2023年のPersonnel Psychologyに掲載された電子的パフォーマンス監視のメタ分析では、94の独立サンプル、計23,461人を分析しています。

結果はかなり示唆的です。

電子監視が労働者のパフォーマンスを改善するという証拠は確認できず、一方で監視の存在はストレス増加と関連していました。

しかも、透明性が高く、侵襲性が低い監視のほうが、従業員の態度は良好でした。

「測れば管理できる」という発想は、とても魅力的です。

でも、人間はメーターではありません。

測定指標が評価につながれば、人は指標を改善する行動を始めます。

成果ではなく、指標を。

なぜ、こうした仕組みは増え続けるのか

ここで思い出したいのが、経営学者Eric Abrahamsonが1996年に提示した「Management Fashion」という考え方です。

彼は、ある経営手法が「最先端で、進歩的である」と集団的に信じられ、コンサルティング会社、経営メディア、ビジネススクールなどを通じて広がる現象を論じました。

もちろん、1on1やアジャイルやKPIが単なる流行だ、という意味ではありません。

役に立つものは役に立ちます。

ただ、組織はときどき「導入したこと」そのものを成果にしてしまいます。

1on1を導入しました。 DXを導入しました。 OKRを導入しました。 AIを導入しました。

そして次に聞かれるのが、「実施率は何%ですか」です。

ここで少し嫌な予感がします。

実施率100%を達成するために、意味のない1on1が100%実施される未来です。

AIは、この茶番を終わらせるのか。それとも完成させるのか

AIは、本来こうした事務作業を減らせるはずです。

会議を要約する。 日報を自動生成する。 進捗を集約する。 報告書を作る。

便利です。

ただし、業務そのものを見直さずにAIだけ入れると、少し面白いことが起きます。

人間がAIに日報を書かせる。 AIが日報を要約する。 別のAIがその要約を上司向けに整理する。 上司もAIに「重要なところだけ教えて」と聞く。

ここまで来ると、最初から日報そのものをなくしたほうが早いのではないか、という疑問が出てきます。

AIで「仕事してる感」を高速生産する会社と、AIで「仕事してる感」を消す会社。

これから差がつくのは、たぶん後者です。

問うべきは「やっているか」ではなく「何が変わったか」

仕組みを全部なくせばいい、という話ではありません。

日報が知識共有に使われている会社もあります。 1on1が離職防止や成長支援につながっている会社もあります。 朝会が障害の早期発見に役立つチームもあります。

問題は、目的を失った仕組みを惰性で続けることです。

見直すなら、私は次の順番がよいと思います。

この5つに答えられないなら、かなり怪しい。

「昔からやっているから」は、理由ではありません。

「みんなやっているから」も、理由ではありません。

「シゴデキっぽいから」に至っては、もはや理由ですらありません。

必要なときに話す。 必要なことだけ残す。 問題があるときだけ集まる。 そして、 本当に価値を生む仕事に時間を使う。

それでいいのではないでしょうか。

仕事をしている人に、 「仕事をしている証拠」 まで作らせる。

そんな仕事だけは、 そろそろ仕事から外していいと思います。

出典・一次情報・参考文献